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profile
旅めがねの取材と記事を書くこと、学生たちと一緒に少しずつ進めています。人の"自然と足が向く"姿を見るのが好き。そんな場所をつくったり、関わったりしていたい。誕生日辞典に「57歳で旅人になる」と書いてあったので、そろそろ旅について考えはじめた2020年、40歳、厄年のど真ん中です。
“文化の発信”を大阪から応援する『はっち』
ローカルメディア&シェア本屋『はっち』で聞く、お金で買えない文化のこと


田中さん自身、過去にフリーペーパーを発行していた時期があったとのこと。その時に感じていた「どこで配ればいいの?」という悩みが、『はっち』のアイデアにつながったと言います。
「フリーペーパーって、どこにでも置いてそうで、意外と置いてないんですよね。たとえばタワーレコードとか、雑貨屋には置いてあったりするけれど、チラシやイベントフライヤーと同じ扱いで、店の隅っこのラックに入れられてたりするでしょう?あれだと簡単に捨てられてしまうイメージがあるし、お店もお金になる商品とお金にならないものを分類していて、お金にならないものは余ったスペースで、という感覚があると思う。フリーペーパーを発行している側の立場からすると、ちゃんと置いてもらえない悔しさがあったし、一方でフリーペーパーを探している人が、改めて探そうと思った時に、今度はどこに置いてあるのか分からないという、そこにミスマッチがあるなと感じていたんです。」
フリーペーパー専門店といえば、東京には『ONLY FREE PAPER』というお店が10年ほど前からあり、また『はっち』の生まれる半年ほど前に、京都で『只本屋』というお店がオープンしていました。
「東京と京都にあるなら、大阪にも欲しいよね、と思ってつくりました」と、田中さん。「大阪には、文化というものに対して、良くも悪くも東京や京都と違った独特のスタンスや見られ方があって、そんな場所から“文化を発信している人を応援する”ということには意味があるなと思ったんです。」
そんな田中さんの想いを背景に、『はっち』は日本で3番目のフリーペーパー専門店として、ここ大阪に生まれました。

“こうあるべき”というような暗黙のルールが存在しない世界だからこそ、そこにいる当事者の捉え方次第でどんなものにも変化していける、何にでもなれるといった楽しみがあるのかも知れません。明確な定義のない“曖昧な存在”のままでいるということは、不安になってもおかしくない状態のはずなのですが、田中さんはそれを楽しんでいるような。
また、田中さんは「フリーペーパーのフリーは“無料”じゃなくて“自由”のフリー」だと言います。それぞれの捉え方次第で、ある人にとっては宣伝用のチラシでしかないものも、別のある人にとっては立派なフリーペーパーだったりするのだと。
「何かしら個人の想いが見える文章が書かれていたりすると、それはもうぼくにとってフリーペーパーなんですね。フリーペーパーを“自由なメディア”と捉えると、webや映像だってフリーペーパーと言えます。そうやって一般的なフリーペーパーのイメージを拡大解釈する意味も込めて、最近では“ローカルメディア”と呼ぶようになりました。」
2020年、コロナの影響で取材に行けないなど、廃刊したりwebメディアに移行するフリーペーパーも多いのだそう。そんな中で『はっち』はこれまでと変わらず“自由なメディア”の受け皿でいられるよう、自らも自由に形を変えていく。そんな変化の途中を見せてもらっているような気がしました。

『Himagine【ヒマジン】』
学生の頃に趣味でつくりはじめたメンバーが、社会人になってからもなんとなく不定期発行を続けているという、見るからに完全手づくりのフリーペーパー。田中さんは彼らが学生の頃から知っているそう。これぞフリーペーパー!という敬意を込めて田中さんに「ここまで質の低いものは他にない」と言わしめた逸品。vol.25ではアラサー会社員たちの超個人的な話が体験談や4コマ漫画で脈絡なく散りばめられていて、確かにタイトルの通り暇人には最高の暇つぶしツール。

『JR九州鉃聞』
発行のところに「九州旅客鉃道株式会社 東京支社」と書かれているように、レッキとしたJR九州公認のフリーペーパー。にしては!の、この手づくり感に驚かされる。本当にJR九州が好き、鉃道が好き、沿線のまちが好きなんだなぁ、という気持ちが伝わってくるような、丁寧に時間をかけてつくられている印象がとても魅力的。いわゆる“中の人”が本音で発信している会社公認の情報と言えば、TwitterのSHARP公式アカウントを思い浮かべる。

『三浦編集室』
「石見銀山・島根県大田市大森町の暮らしを伝えるフリーペーパー」と、このvol.1冒頭の創刊特集、出だしの文章に書かれている。読むと、この「三浦編集室」ができる前は「三浦編集長」というフリーペーパーだったというではないか。編集長が編集室に変わっただけで、どちらも三浦!大胆にも媒体名に個人の名前をつけているこのフリーペーパーは、三浦さんの勤める群言堂という会社の立派な広報誌なのだとか。田中さんの言う「個人の想い」がしっかり綴られている気がして、とても興味深い。
田中さんは、「ここには“Amazonで買えないもの”しか置いてない」と言います。
欲しいものがあれば、スマホで簡単に検索して探すことができますし、スマホで探して見つかるものは大抵、お金さえ支払えば手に入るものばかりですが、「フリーペーパーはお金で買えない」でしょ?と。
「“買わないと楽しくない”っていう発想から自由になれるんです。これだけインターネットやSNSが生活に浸透すると、いつだって気に食わない価値観はブロックできるし、会いたくない人には会わなくてもいい。逆に言うとwebとかお金っていうのは自分の興味あるものにしか触れられないけれども、フリーペーパーは“ノイズ”を手に取りやすいんです。」
“ノイズ”=雑音。普段の生活においては“必要でないもの”、余計な存在。お金とか経済とか、損得勘定で計算している“必要なもの”にはカウントされないけれども、確実にこの世界に存在している「人の想い」だったり、一見自分とは関係のなさそうな様々な文化だったりを、田中さんは“ノイズ”と呼んでいて、その“ノイズ”に意図せず出会えるのが楽しいのだと、『はっち』の運営を通じて教えてくれているようでした。

今年は新しい取り組みとしてシェア本屋をはじめたり、YouTubeチャンネルも作ったりして活動の幅を広げています。
「“自主制作映画バー”もやろうと思ってます。」と、田中さんはますます自由を楽しむ様子。しかしそこに一貫してあるのは、「お金以外の価値観」=“文化”の発信を応援するというスタンス。これが、大阪中津の『はっち』なんです。
スポット情報
ローカルメディア&シェア本屋『はっち』
- 【住所】
- 大阪市北区中津5-4-21
- 【アクセス】
- JR「大阪」駅、地下鉄・阪急各線「梅田」駅から徒歩5分程度、阪急「中津」駅からは徒歩3分程度
- 【ホームページ】
- https://hatch2015.jimdofree.com/
- 【お問い合わせ先(電話)】
- 090-1446-5349/田面(たづら)